2023.04.05
第3回CSA賞意見交換会「社会課題解決への思いと収益性へのこだわりをもって働く若手を育成するには」【後編】
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第3回CSA賞授賞式で行われた意見交換会のレポートの後編です。
(前編はこちら)
第3回CSA賞の受賞企業からは、豊田通商株式会社 アフリカ本部を代表し、副社長である今井 斗志光氏(以下、今井)と株式会社ボーダレス・ジャパン 副社長の鈴木 雅剛氏(以下、鈴木)に参加いただきました。
また、一橋大学 ビジネススクール国際企業戦略専攻 客員教授 の名和 高司氏(以下、名和)、
国際社会経済研究所 理事長の藤沢 久美氏(以下、藤沢)、
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役の渋澤 健氏(以下、渋澤)、
そしてエン人材教育財団 理事長の越智 通勝(以下、越智)の4名の審査員が参加しました。
テーマは「社会課題解決への思いと収益性へのこだわりをもって働く若手を育成するには」。
後編では収益性に対するこだわりを持つ若者に関する議論についてレポートします。
藤沢:
組織の場合、レイヤーが上の人が収益をあげる仕組みを考え、現場の人は収益のあげ方については考えない構造になりがちなのではないかと思います。すると、現場の若い人は「貢献」という視点だけでスタートアップやNGOのほうが役に立てるかもしれないと考え、収益力のない若者が社外に出ていくのではないかという懸念があります。収益に対する意識・スキルのある若者をどのように育てているのですか?
今井:
審査員である名和先生の著書の「資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター※」を拝読しました。社内でも今全員に読むように勧めています(笑)ビジネスの立ち上げや、スタートアップへの投資は山のように挑戦していますが、スケールしている事業はまだ一部。リアリティを持った世界では、優しいだけでは生き残れないのも現実です。
鈴木:
自分たちが重要にしている指標を、ソーシャルインパクト(SI)と呼んでいます。事業ごとに、例えば貧困の人たちの雇用数、継続率、雇用数の裏にある経済状況の変化率などを数値にしており、SIが伸びるイコール売り上げや利益が伸びるというビジネス設計になっています。
ボーダレスは数字のツールがめちゃくちゃあり、管理会計はアルバイトも47社分見れるように共有しています。管理会計のてっぺんにSI(ソーシャルインパクト)があり、その下にCF、バーンレート、在庫、PL、BSなどの細かい数値が全事業ごとに共有されており、店舗やチャネル、プロダクトごとにも数字を落として徹底しています。毎朝の朝会で記入されたKPIを確認しています。
人件費に関しても8段階の項目ごとに割っていて、どこに人件費の付加価値やボトルネックがあるのかを見られる状態にして、経営判断の材料にしています。これらがスタートアップした瞬間から見られるようになっているんです。
藤沢:
入社数カ月で数字で語れるようになるんですか?
鈴木:
いきなりはマスターできないですが、自分で事業をプランニングして動かしながら実力をつけていきます。管理会計を大手の企業に見せると驚かれますね。
今井:
その話を聞いていてびっくりしました。メッシュがかなり細かいですよね。係数観念がないとビジネスは継続できないので、大事ですね。初めからそれに慣れて入っていくのはすごいです。
鈴木:
資金について、今各社それぞれが銀行で借入するようにしています。1000万までは会社で保証するようにしていて、会社が潰れるときも負債が残らないようにしています。
越智:
人材育成の観点において、銀行から借り入れをさせるのはすごくよいと思います。調達だと返さなくてもいいが、銀行は返さないといけない。命がけですよね。鍛えるのにものすごくいいと思います。
今井:
キャッシュをバーンしていい期限を決めるべきだと思います。バーンしても誰かがカバーしてくれるのではビジネスは成立しないので。キャッシュフローに責任を持つというのは重要な要件だと思います。
鈴木:
今までは社内金融で借りていたので恩を受けている分、失敗できないという気持ちが強く、「ちまちま病」になったんですね。しかし自分で借りてくると、自分で借りたお金なので「思いっきりチャレンジできるようになった」と言うようになりました。経営者レベルが一段階上がりましたね。
藤沢:
ボーダレス・ジャパンでは「ゼロイチ出向」の取り組みを行っていますが、これからCSA賞を取れるような企業を増やすためにも、大企業の社員をどのように育てていこうと考えているのか教えていただけますか。
鈴木:
受け入れ第一号は日本を代表する大手企業で、その後も大手から来ていただいています。基本的に大手企業の20代後半の方はめちゃくちゃ優秀です。それでも、最初の 2カ月間はみんな苦労しています。それは仕事のレイヤーが違うからです。大手では調整型の仕事が多く、若いうちから自分で決定する仕事は少ないですよね。一方、ボーダレスでは、もちろん仲間やリーダーに相談はしますが、最終決定は担当者が自ら下します。ベンチャーはスピード勝負、求められる仕事のスタイルが違うんです。(出向してくる)6年くらい働かれた方だと、「話を進めるのに、事前に稟議を回す」といったことが当たり前になっていて、自分で決めてどんどん進めていくという経験をしていない人が非常に多いです。
「自分で決める」という壁を乗り越えていかないといけないんです。
もう一つはプライドです。心のなかでは、ボーダレスでもすぐに結果を残せるだろうと思っていますし、それはある意味で必要な自負だと思います。でも、実際は思うように動けない。そんなプライドが1~2カ月のうちにはがれていくと、もともと持ってるすごい力が発揮されていきます。勝手にいろいろ始めるし、いろいろな部署から引っ張りだこの状態になっていく。だからそうやってプライドを脱いで、自分が決める、やり切るというアクションを繰り返していくことで、半年もあればガラッと人間性や仕事への向き合い方が変わってきます。
名和:
逆のパターンもあっていいと思っています。ベンチャー企業の良さと大企業のブランド・やり方を生かしていけると、人の交流だけでなく、もっとすごいことが起きるんじゃないと思っているんです。
今井:
それは今度飲みながら話したいですね(笑)