2023.04.03

第3回CSA賞意見交換会「社会課題解決への思いと収益性へのこだわりをもって働く若手を育成するには」【前編】

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2023年3月3日に開催された第3回CSA賞授賞式の後、受賞企業2社と審査員とによる意見交換会が行われました。

第3回CSA賞の受賞企業からは、豊田通商株式会社 アフリカ本部を代表し、副社長である今井 斗志光氏(以下、今井)と株式会社ボーダレス・ジャパン 副社長の鈴木 雅剛氏(以下、鈴木)に参加いただきました。

そして一橋大学 ビジネススクール国際企業戦略専攻 客員教授 の名和 高司氏(以下、名和)、

国際社会経済研究所 理事長の藤沢 久美氏(以下、藤沢)、​

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役の渋澤 健氏(以下、渋澤)、​

そしてエン人材教育財団 理事長の越智 通勝(以下、越智)の4人の審査員も参加しました。​

テーマは「社会課題解決への思いと収益性へのこだわりをもって働く若手を育成するには」。CSA賞受賞企業2社の具体的な取り組みや、風土の裏にある考え方を中心に、企業規模に関わらず企業が大事にすべきポイントが多く語られました。その様子を2回にわたってレポートします。

前編では「社会課題解決への思い」の育成、後編では「収益性へのこだわり」の育成についてまとめています。

議論は渋沢栄一の思想からスタートしました。

越智:

「論語と算盤」は、我々で言う「主観正義性」と「収益性」の両立の話ですが、人材育成について渋沢栄一はなんと言っていたんでしょう?

※社会や業界に対して自社なりの問題意識を持ち、 本業の商品・サービスでその問題を解決しようとしていること。詳しくはCSA賞の「審査基準」をご参照ください(https://csa-award.or.jp/about/

渋澤:

渋沢栄一に直接話したことはないので(笑)、書籍に残っている言葉から推測すると、明治維新のころ、「最近の教育はだめだ」と言っているんですね。日本がある程度豊かになった時代に懸念を示しています。明治の教育は「小さいかわいい花壇を作るようなもの」だと表現しているんです。昔の方が、それぞれの特性を生かした教育をしていました。100年以上前のことですが、今また同じことを繰り返しているのではないかという印象です。

CSA賞審査委員 渋澤 健氏

越智:

渋沢栄一さんは西洋の問題点を感じておられたんですかね?

渋澤:

学べるものは使うが、ただ真似事すればよいということではなく、「士魂商才」という言葉を使っていました。当時着ていたものは洋服だったが、心の中は変わらないと言っていました。

日本だからということもなく、それぞれの国が自分たちの文化・生き様をきちんと反映していくことが大切だということです。

渋沢栄一は尊王攘夷だったので、最初はアンチ西洋でした。でも、西洋から新しく使えるものがあるとも気づきました。多くの若者たちが、日本から外に出て、啓発されて日本に戻ってきてから明治維新が起きた。渋沢栄一が20代の時です。

越智:

なるほど。ありがとうございます。受賞企業の方々にも是非お話を伺いたいです。

今井:

テーマにある社会課題を解決するときは、小さく変えていくのではなく、産業を起こしたり、オフィシャルなプラットフォームを作っていかないとサステナブルになりません。

「社会の不幸をビジネスの力で産業に変えていく。」これを若手で心がソフトなうちにアフリカで体感すると腹底に落として帰ってきます。人材育成にはこれが大事なんじゃないかと思います。

鈴木:

個人的には「社会課題解決」という言葉が好きではないです。「社会」という言葉を使った瞬間、急激に漠然とするからです。漠然とした中でSDGs教育を受け、概念的には良い社会づくりをしないといけないと勉強してきていても、リアリティがないのが現実です。一人一人がどういったことに困っているのか、原因の背景や社会構造を捉えられたときはじめて、熱量を持てるのです。

例えばバングラディッシュの革製品の工場だと、貧困問題も多様で、都市部と田舎でも問題の構造が違います。

都市部の中でもシングルマザーの方、障害のある方、教育が受けられなかった方、いろいろなパターンがあります。教育受けられなくても働く場所はあるが、実態は日雇いで一日百円、月十回というような生活をしている人がたくさんいるんですね。彼らが人間として幸せに誇りを持ちながら、経済的にも安定して生きていく状況をどう創り出していくのかまで落とし込んでいかなきゃいけない。

顔が見えてくる、というとこまで来て初めて熱量が入るし、それを重ねて、「こんなモデルで雇用して彼らが誇りを持てるような仕組みを作ればよくなるんじゃないか」というものを描き、ぶつけていく中で、実際に彼らの生活に影響を及ぼし始めた、というところを見て初めて本物になるんです。

名和:

熱量を持つためにはどういったきっかけがあるか教えてもらえますか。

鈴木:

人間成長のステージが絡む問題です。20代前半は自己確立していないため外部評価を欲しがる人が多い。周りからの評価が欲しくて社会、社会という人がたくさんいます。そういう人が入り口で入らないようにしています。

とはいえ、若いのでグラデーションがあり、100%社会に向いている人なんていません。社会ではなく自分にベクトルが向いている感覚がある前提で、社会に向けたベクトルに展開していくステップを踏む。また、顔が見えたから必ず熱が入るかというとそうでもなく、自分の取り組みの効果が出たという成功体験があってはじめて次のステージに上がれるんです。

創業者の田口・鈴木は原体験がないタイプですが、社会を何とかしないといけないと考えて始まっていきました。原体験云々というよりは、プロセスをしっかり作ることが大事だと思います。

株式会社ボーダレス・ジャパン 副社長 鈴木 雅剛氏

 

今井:

社員を見ていると、楽をしたいとかお金を儲けたいという気持ちではなく、良い仕事をした時の喜びや、「ありがとう」という言葉、周りの人々の幸せや笑顔に心が動き、“これがやりたかった”と発見をする人間が出てくるんですね。そういった経験をアフリカでしてくる社員が多いです。ぼくらは「Life is journey」と言っているのですが、一生懸命に取り組んでいる中で、人とのつながりによる充実感と喜びを感じると、覚醒していきますね。

第3回CSA賞意見交換会「社会課題解決への思いと収益性へのこだわりをもって働く若手を育成するには」【後編】に続く≫